初代ストリートグライドが登場したのは2006年のこと。伝統のバッドウイングフェアリングとサイドケースを備えながらも、ウルトラ系と比べてスポーティに纏められたストリートカスタム的スタリングは登場時から多大な人気を誇るモデルだった。
その後エンジンやタイヤサイズの変更などが施されながら進化を遂げて行き、今回取り上げるのはそのストリートグライドをベースに装備の充実などが施されて2015年に登場した上位モデルであるストリートグライドスペシャルだ。本年は同系派生モデルにあたるストリートグライドSTが登場し、そちらが注目を浴びる格好となっていた。私自身、このバージンハーレーでストリートグライドSTのインプレッションを行い、とても良くまとめられた一台だと感じたものだが、一方でストリートグライドスペシャルはもっと上質な乗り味だったのではないかと思い、この場で再び触れることにしたのである。
グランドアメリカンツーリングシリーズ(旧ツーリングファミリー)の中で、シャークノーズフェアリングが備えられたロードグライドスペシャルと、バッドウイングフェアリングを持つストリートグライドスペシャルはハーレーダビッドソンの象徴として双璧を成す人気モデルである。
この二者はカウルによるスタイリングの印象と、そのカウルのマウント方式によるハンドリングの違いが大きなポイントとなっている。シャークノーズはフレームマウントでありバッドウイングはフォークマウントなのだ。これははっきり言って好みの問題だが、やはりバッドウイングフェアリングの方がステアリングとなるフロントフォークに備わっている分、切り返しは重い。しかしハンドリングそのものはニュートラルな反応を見せ、実際のところ扱いに慣れてしまえば、むしろ小回りはストリートグライドスペシャルの方がしやすい。
話がズレてしまったが、ロードグライド系とストリートグライド系でどちらを選ぶか悩む人も多いと思うのだが、スタイリングだけでなくハンドリングが大きく異なるため、まずは乗ってみることをお勧めしたいのである。
さて、それでは現行のストリートグライドスペシャルを1週間借用した上で感じられた実用面での使い勝手や、走りに関しての手ごたえなどをお伝えしてゆこう。
ストリートグライドスペシャルに乗るのはおよそ1年ぶりのこととなった。正規ディーラーやハーレーが集まるイベント等ではあまり感じないが、一台だけ目の前に置かれると、相変わらず威風堂々という言葉が似合う立派な体躯である。フェンダーが短くチョップされシングルシート化などが施されたストリートグライドSTが登場したこともあり、むしろストリートグライドスペシャルの存在感はより一層強くなった感じだ。今回のテスト車両がビビッドブラックだったこともあるが、ポップ感はゼロで、それに対して不良感は満点のスタイリングだ。
排気量1868ccを誇るミルウォーキーエイト114エンジンを始動し走り出す。低回転域から太いトルクを発生するので、アイドリング+α程度でも回していれば、ゆったりとしたクルーズを楽しむことができる。
秘めたる本来のポテンシャルは電子制御システムにより抑えられてはいるものの、ひとたびスロットルを開けば、乗り手を振り落とそうとするほどの強烈な加速を得ることができる。昨今のバイクでは数種のライディングモードが用意されているものが多いが、そういった小細工をせずに一本のセッティングで勝負しているところもハーレーの拘りを感じられる点だ。
そして暴力的な走りを楽しめるパワーを持ち合わせているにも関わらず、それを誰でも楽しめることや、雨の日に走らせてもしっかりと車体をコントロールできてしまうのは、車体制御システムであるREFLEX™を装備していることが大きい。 キャブレターモデルの崇拝者の中には現行モデルの少々ケミカルチックなレスポンスに違和感を覚えるという人もいるが、ノーマルの状態で極上の走りを楽しめる上に、コンピューターチューンを施せばさらなるパワーを得られるミルウォーキーエイトエンジンは物凄いものだと私はいつも思っている。
車両重量は375キロ、ライディングポジションは広く、さらに大きなバッドウイングフェアリングはフォークマウントされているということもあり、この手のモデルにあまり触れたことのないライダーは、最初のうちはまず扱うことさえ戸惑うことがあるかもしれない。ただし、シャシーや足回りのセッティングは完璧と言ってよい程の出来栄えである。ハンドル操作だけに頼らず、ステップワークと腰使いもしっかりと注力する。力を抜いた走らせ方さえ習得すれば、ハイウェイはもちろん、ストリートであろうともワインディングであろうとも、気持ちの良い極上の世界を味わうことができるのだ。ハーレーが鉄馬と呼ばれる所以は、馬を手名付ける所作からも来ているのだと私は思っている。
タンデムライドも素晴らしい。ソロで扱えるようになれば、後ろに人が乗っても何ら気負いせずに走らせることができるようになっているはずだ。そもそもシャシーからしてタンデムライドのことも想定して設計されていることもある。そう考えると、ソロ仕様とされタンデムを楽しめないストリートグライドSTは少々もったいないとも思えてくる。
そうそう、しばしば車両の撮影で借りている場所でのこと、その土地の持ち主もハーレー乗りで、私が撮影をしていると声をかけてくることもあるのだが、今回ストリートグライドスペシャルを乗っていくと、「心地の良い音が聞こえたからハーレーだとすぐに分かったよ。やっぱりハーレーはクロが一番しっくりくるねぇ」といつも以上に話しかけてきた。その数日後にも信号待ちをしていると、隣にとまったクルマの窓が開き「カッコいいハーレーだね!」と声を掛けられたり、バイクパーキングでも「排気量はいくつですか? 新車ですか?」などと話しかけられる。ストリートグライドスペシャルは、それほどに人の目に留まるのだ。
ルックス、乗り味、使い勝手、すべてを踏まえて、ストリートグライドスペシャルはハーレーがここまで歩み培ってきたフィロソフィが凝縮された一台に仕上がっており、多くのライダーが憧れを抱くモデルなのである。
排気量1868ccを誇り、最大トルク158Nmを3250回転で発生させるミルウォーキーエイト114エンジンを搭載。低回転での強いトルクは躊躇しているとギクシャクする感があるので、むしろダイナミックな走らせ方を楽しむ方が良い。
大胆に肉抜きされたスポーティな形状のキャストスポークホイールに、130/60B19サイズのタイヤをセット。存在感のあるフェンダーもマッチしている。フロントフォークの動き、ブレーキの制動力など、総じて完成度が高い。
ゆったりと腰を落ち着けることのできる上質な座り心地をもたらしてくれるライディングシート。適度な硬さと反発力を持ち、長時間乗車でも疲れにくい。タンデムシートは後方に向かってスラントしているので、タンデムでロングツーリングをするのであれば、シッシーバーやツアーバッグ(トップケース)の装着をすればより快適。
シールド部分が短くカットされた伝統的なバッドウイングフェアリング。空力に優れ、多少の雨であれば走行中ライダーの上半身はほとんど濡れることがない。ヘッドライトには高輝度白色LEDのデイタイムランニングライトを装備している。
サイドケースが備わっていることもあり、シンプルながらも迫力のあるリアセクションとなっている。サイドケースはエクステンドタイプなので、マフラー部にかぶさるようなデザインとなっている。ストップランプはウインカー内蔵式。
リアタイヤサイズは180/55B18。強力なパワーを路面に伝えることはもちろん。ABSやトラクションコントロールなどの電子制御システムの作動もナチュラルであり、雨天や悪路でもパスすることができる。
高級感のあるコクピットには、中央部に最新バージョンのBOOM! BOX GTSインフォテインメントシステムを搭載。スマートフォンなどとのペアリングも可能であり、スピーカーの音質も良い。
足に伝わる不快な振動を抑えるクッションを備えたステップボード。ロングツーリングで疲労度を抑えるだけでなく、コーナーリングなどで車体をコントロールするのにも、この形状のステップボードが有効的だ。
サイドケースの使い勝手は良好だ。容量の大きいエクステンドタイプであることもあり、大きなリュックサックなどもすっぽりと収めることができるので、ツーリングだけでなく日常的に重宝する。
丸みを帯びた柔らかな形状の燃料タンク。22.7リットルとかなり大きく給油回数を少なく抑えたロングツーリングを楽しむのに適している。ただし、当たり前だがスロットルをガンガン開けるような走らせ方をしていると燃費は悪い。
ダッシュパネルの右側にはUSBソケットを備えたケースが用意されている。ガジェット類の給電や、通行証などを入れておくのに便利だ。その右奥には電熱ジャケットなどで使える電源ソケットが備わっている。
インフォテインメントシステムはタッチパネルとなっているほか、左右のスイッチボックスに備えられた十字コントロールボタンでも操作を行うことができる。ウインカーは左右振り合分けタイプ。
リアサスペンションはプリロード調整可能なツインショックとなっている。サイドケースの脱着は容易なので、走るシチュエーションによって調整をしたい。ハーレーのアイデンティティでもあるベルト駆動を採用。
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