
ハーレーダビッドソンのツーリングファミリーは、大きく3つの系譜に分かれる。バットウイングと呼ばれるハンドルマウント式フェアリングを持つエレクトラグライド系、フェアリングを持たずトラディショナルなヘッドライトナセルのみを装着するロードキング系、そしてフレームマウント式のシャークノーズフェアリングを特徴とするロードグライド系だ。
かつてはバットウイングフェアリングを備えたウルトラ系こそがフルドレスツアラーの看板であり、長距離を走破するための”本命”という扱いを受けてきた。しかし今や、シャークノーズを纏うロードグライドも、立派にもう一つの看板として認知されるまでに成長している。

ロードグライドという名を与えられた最初のモデルが登場したのは1998年のことだ。だがそのルーツをたどれば、1980年に発売されたハーレー初のフレームマウントフェアリング搭載ツーリングモデル、FLTツアーグライドにまで行き着く。高い防風性能とスタイリッシュな佇まいを両立したシャークノーズフェアリングは、登場から多くのライダーに支持され、ロードグライドカスタムやロードグライドウルトラ、そしてCVO(カスタム・ビークル・オペレーションズ)によるロードグライドRRといった派生モデルを次々と輩出しながら、ツーリングファミリーの中での存在感を着実に強めてきた。
その歩みの中で、決して平坦だったわけではない。2014年の「プロジェクト・ラッシュモア」では新型フレームやフロントフォーク、前後連動ブレーキシステムが投入され、ロードグライド系は大きな飛躍を遂げたが、その過程ではモデルの統廃合や一時的なラインアップからの離脱も経験している。実際、上級グレードであるロードグライド スペシャルも、わずか1年のブランクを経て復活を果たした歴史を持つ。

そして今回の主役、ロードグライド リミテッドにも、同じような物語がある。2025年モデルで一度ラインアップから姿を消していたこのグレードは、わずか1年のインターバルを経て、2026年モデルで見事にカムバックを果たした。ハーレー自身がこのモデルを指して「King of the Highway Returns(ハイウェイの王者が再来)」と謳っているあたり、その復活にかける意気込みが伝わってくる。
パートナーと共に、あるいは一人きりで、地平線の彼方まで何日でも走り続けられる。大海原を渡る船のように、果てしない距離を悠然とこなす。そんな大航海を支えるために開発されてきたのが、このロードグライドという系譜なのだ。豪華絢爛な装備、上質な乗り心地、そして圧倒的な高級感。これらはすべて、長距離を走り切るという一点に奉仕するために磨き上げられてきたものである。
2026年モデルのロードグライド リミテッドにおける最大のトピックは、エンジンの進化だ。液冷式Milwaukee-Eight 117に、新たに可変バルブタイミング機構(VVT)が組み合わされた「Milwaukee-Eight VVT 117」を搭載。最高出力107HP(80kW)/5020rpm、最大トルク175Nmを発生し、ハーレーダビッドソンが市販の量産ツアラーに投入した中でも、最も先進的なエンジンだと謳われている。
複数のライドモード、そしてSHOWA製サスペンションによるしなやかかつ強靭な足まわりのセッティングが、路面状況や積載量に応じたきめ細かな乗り味を実現する。
そしてナビゲーションや各種車両情報を表示する312mm(12.3インチ)の大型Skyline OSディスプレイが、フェアリング中央に鎮座。タッチパネル操作に対応し、音楽再生や通話、ルート案内までをワンストップで完結させる、まさにツーリングの司令塔だ。

フェアリング自体も再設計され、防風性能とデザイン性をさらに磨き上げている。両サイドには走行風を積極的に取り込みつつ、膝まわりのウインドプロテクションを高める角度調整式のフラップウイングも備わり、空力特性を徹底的に追求した結果が随所に表れている。足まわりは軽量鋳造アルミホイール(フロント19インチ・リア18インチ)を採用し、光沢をもつブラックカラーが足もとの存在感を演出。制動システムには前後連動式のブレーキが組み込まれ、この車重をしっかりと受け止める。
装備面での目玉は、新設計の「Grand Tour-Pak」だ。LEDライトを内蔵した新型となり、大容量のトランクスペースを確保。ヒーテッドグリップやヒーテッドシートといった快適装備に加え、4スピーカー・200Wのプレミアムオーディオシステムまで標準装備される。これらはすべて、長距離を走り切るための”旅の道具”として機能する。日本仕様のメーカー希望小売価格は433万5800円からと、決して安くはない数字だが、この装備内容と走りの質を知れば納得できる設定だろう。

同じツーリングファミリーの中でも、兄弟分にあたるストリートグライドはハンドルマウント式のイーグルウィングフェアリングを採用し、より伝統的なウルトラリミテッドをモダナイズした性格を持つ。対してロードグライドは、より大型かつ未来的なマスクのシャークノーズフェアリングをフレームマウントで装着し、車幅もストリートグライドより30mm狭い945mmに抑えられている。さらにロードキングは、そもそもフェアリングを持たないトラディショナルなスタイルを貫いており、同じツーリングファミリーでありながら三者三様のキャラクターを描き分けている。

そしてハーレー自身が「Bagger Performance Meets Road-Ready Luxury(バガーの性能と、公道仕様の贅沢の融合)」と謳うように、近年活発化しているバガーレース活動からのフィードバックも見逃せない。ファクトリーレーシングが磨き上げたシャシーやサスペンションのノウハウは、市販車の足まわりにも着実に還元されている。見た目は変わらず堂々としていながら、実際に走らせたときの軽快さや安定感は、年々確実に進化しているのである。

とにかく大きい。そして重い。跨る前から伝わってくる存在感は、正直なところ威圧的ですらある。フェアリングの大きさ、サドルバッグの容量、そしてどっしりとした車重。すべてが「これは並大抵のバイクではない」と主張してくる。
だが実際に走らせてみると、その印象はすぐに裏切られる。扱いやすいのだ。ハンドル位置は高めに設定されており、これはつまりマス(車体の重心)から手の位置が離れているということを意味する。その結果、取り回しや低速走行、駐輪場での押し引きといった場面では、相応に気を使う必要がある。巨体を支えながらゆっくりと方向転換する瞬間などは、慎重な操作が求められるのも事実だ。

しかし、それを優に凌駕するだけの、素晴らしいライディングプレジャーがこの一台には備わっている。ひとたび走り出し、ある程度の速度域に達すれば、あれほど気を使った重さが嘘のように消えていく。ハンドルの高さそのものは、実際に跨ってみると具合が良い。長時間のライディングでも腕や肩に余計な負担がかからず、数日間にわたって走り続けるような長距離ツーリングのスタイルにも、無理なく対応できそうな懐の深さを感じさせる。

新型Grand Tour-Pakとサドルバッグを合わせれば、2人分の荷物を余裕で飲み込んでしまうだけの容量がある。ヒーテッドグリップとヒーテッドシート、そして4スピーカー・200Wのオーディオシステムが揃った装備は、まさに至れり尽くせり。ポジションは終始快適で、長時間のライディングでも疲労感が蓄積しにくい。VVT機構を得たエンジンのトルクの出方もマイルドで、ドンと唐突に出てくるタイプではなく、スロットルを開けた分だけ素直に応えてくれる上質な特性だ。このテイスティな味付けこそが、ツーリングファンを虜にする理由なのだろう。

特筆すべきは、上質な乗り心地だ。SHOWA製サスペンションが路面からの入力を丁寧にいなしながら、大柄な車体を感じさせない気持ちよさで前へ前へと進んでいく。むしろこれは417kgという重量があってからこそ効いてくるしなやかさだと思える。高速道路での巡航では、大型シャークノーズフェアリングがもたらす防風効果も抜群で、長時間走り続けても体力の消耗を最小限に抑えてくれる。パートナーをタンデムに乗せて、あるいは一人で、ただひたすら地平線の果てまで走り続けたくなる。そんな衝動を素直に呼び起こしてくれる懐の深さが、ロードグライド リミテッドにはある。

先述したバガーレース由来の開発成果も、確かに体感できる。これだけの車格、これだけの重量でありながら、コーナーでの倒し込みや切り返しに、思いのほか気を使わずに済む。ワインディングに差し掛かっても身構える必要はなく、大柄な車体をいなすような感覚で、気持ちよく向きを変えていく。巨体ゆえの安心感と、それでいて軽快さすら覚えるハンドリング。この二律背反を高い次元で両立させてしまったことこそ、ハーレーダビッドソンという会社の底力なのだと、改めて思い知らされる一台だった。

液冷式Milwaukee-Eight VVT 117を搭載。エアクリーナーカバーに輝く「117」のエンブレムが、このクラス最高峰のパワーユニットであることを静かに主張する。クロームで統一された外装が、威風堂々とした存在感を放つ。

大径ディスクローターに、軽量なキャストホイールを組み合わせたフロント足まわり。2026年モデルではブレーキキャリパーも含め、制動システム全体が刷新されており、この車重をしっかりと受け止める性能を備える。

象徴的なシャークノーズフェアリングは、2026年モデルで数値流体力学(CFD)を用いてさらに再設計された。空気抵抗やヘルメットのバフェッティングを抑えるこの顔つきは、近年のCVOモデルで磨かれてきたデザイン言語が標準モデルへと波及したものだ。

ロアーフェアリングには、ターンシグナルを一体化したLEDライトが埋め込まれる。走行風を効率よく整流しつつ、エンジン両サイドをしっかりとガードする実用性も兼ね備えた、機能美あふれるパーツだ。

長時間のライディングでも疲れにくい、防振機構付きの大型ステップボード。足元の震動を丁寧にいなしてくれる。隣に並ぶシフトチェンジペダルも、ツアラーらしいゆったりとした操作感を実現している。

タッチパネル操作に対応した312mmのSkyline OSディスプレイ。アナログ然とした2眼式のデザインを踏襲しながら、ナビゲーションや車両情報をフルカラーで表示する、現代的なコネクティビティを備える。

左側スイッチボックスには、オーディオやクルーズコントロール、メニュー操作用の十字キーなどが集約される。グローブを着けたままでも押しやすい大型ボタンが、長距離ツーリングでの操作性を高めている。

右側スイッチボックスには、ハーレー伝統の左右振り分け式ターンシグナルスイッチを配置。PTT(プッシュ・トゥ・トーク)ボタンも備え、インカムを使った会話やハンズフリー通話にも対応する。

高い位置にセットされたハンドルバーは、アップライトで自然なライディングポジションをもたらす。前後27度の調整幅も備え、体格や好みに合わせて、長距離巡航でも疲れにくい理想のポジションを作り込める。

新型のGrand Tour-Pakは、見た目以上の大容量を誇る。内部には小物を収納できるポケットも備わり、グローブやレインウェアなど、ツーリング中に取り出したいアイテムを整理して収納できる。

パッセンジャーの背もたれも兼ねるトップケースは、ヘルメット2個分はゆうに収まる容量を確保。長距離のタンデムツーリングでも、荷物の積載量を気にせず出発できる懐の深さを持つ。